筆者は中小企業診断士として、働き方改革に取り組んでいる多くの経営者を見てきました。本コラムではそのような経験から、これからワーク・ライフ・バランスの実現に取り組もうとしている、または既に取り組んでいるものの成果が上がらずに悩んでいる、そのような企業の方々に、「女性活躍推進」が有効であることについて書かせて頂きます。もちろん、ワーク・ライフ・バランス実現への取り組み予定が無い企業の方に読んで頂いても、参考として頂けます。

 

急速な人手不足で中小企業も本腰を入れ始めた

日本における「ワーク・ライフ・バランス」への取り組みは、1985年の男女雇用機会均等法施行から始まり、それは、雇用面の男女間不平等是正が目的でした。男女雇用機会均等法以降は、採用における差別的取り扱いが禁止されたため、一見したところ女性の就業率は上がりました。

しかし女性は、結婚・出産・育児といったライフステージの変化とともに、一旦離職し、育児に手がかからなくなってから再び働きだすケースが多く見られます。また、家庭に入った女性が再び働きだしても非正規雇用が多く、結果として女性の非正規雇用の比率は約6割と、男性と比べて多い状態が続いています。

そのような日本において、“ワーク・ライフ・バランス”という言葉が一般化したのは、内閣府による「骨太の方針2007」の中に盛り込まれた頃からでした。2008年には、少子高齢化対策への取り組みを企業に求める「次世代育成支援対策推進法」が改正されました。これは、仕事と家庭の両立を支援する雇用環境整備の行動計画策定を主な内容としたもので、従業員数300人以下の中小企業は努力目標でしたが、2011年には中小企業であっても従業員数が101人以上であれば義務化されました。この頃から、中小企業といえども、ワーク・ライフ・バランス実現への取り組みや、出産・育児支援が身近に感じられるようになったと言えます。

そして、中小企業がワーク・ライフ・バランス実現を、より真剣に考えるきっかけとなっているのが、深刻な人手不足傾向です。有効求人倍率は、2006年にはバブル崩壊後に初めて1倍を超えました(1.06倍)が、リーマンショック後の不景気により、2009年には0.47倍まで低下しました。しかし、日本経済の復調傾向と共に上昇し始め、2014年に1.09倍と1倍を超え、2017年11月には1.56倍とバブル期を上回る水準となっています。

少子高齢化と人口減少により労働人口が減る中、採用難が加わり、企業規模の大小を問わず、人手不足傾向が常態化しています。このような採用環境において、人材の確保と定着には、男女を問わず仕事と生活を両立できる環境の整備と、そのアピールが必要となっているのです。

 

東京都の女性活躍推進事業が有効

ワーク・ライフ・バランス実現への取り組みに対しては、様々な助成事業があります。例えば厚生労働省は年度ごとに「働き方改革助成金」を募集しています。しかしこの助成金は行動計画を届け出た上で実績が審査されるので、中小企業が独力で取り組むには、ややハードルが高いとの声を多く聞いています。

これからワーク・ライフ・バランスの実現に取り組もうとしている、または既に取り組んでいるものの成果が上がらずに悩んでいる、そのような企業に提案したいのが、東京都の女性活躍推進人材育成事業の活用です。

この事業は、「女性活躍推進法」を受け実施しているものです。女性はライフステージの変化により離職したり、再就職後も非正規雇用となるケースが多いという現状があります。労働人口が減少する中、女性の活用が必須ということで、この法律が設けられました。東京都の事業は、①女性の活躍推進人材育成研修、②フォローアップ研修の2つの研修があります。①の研修修了後に「女性の活躍推進責任者」を設置した企業には、奨励金として30万円が支給されます。②の研修終了後に「一般事業主行動計画」を策定し東京都労働局へ届出した企業には、さらに奨励金30万円が支給されます。

人材に余裕がない中小企業にとっては、平日日中の研修への参加は業務中断と同じことです。奨励金には、そのような中小企業でも研修を受けやすくするという目的があります。

筆者がこの事業の活用を提案するのは奨励金があるからではなく、東京都が真剣に女性活躍推進に取り組んでいる事業だからです。具体的には、働き方改革・ワーク・ライフ・バランス・女性活躍推進などの取り組みを行っていない企業の担当者でも、研修を通じて必要な知識を習得できます(①の研修)。また、「一般事業主行動計画」策定までの面倒を見てもらえる(②の研修)ことで、女性活躍推進のスタートラインに立てるのです。

また、研修の内容は座学だけでなく、グループ討議もあります。研修を受けた方からは、さまざまな業種から参加してきた人達と意見を交わせる機会は、非常に有意義であったという、前向きな感想を多く聞きました。

 

女性活躍推進に取り組んだ成果の例

助成活躍推進に取り組んだ企業からは、何かしらの成果が上がったという感想を多く聞きました。そのいくつかを紹介します。

まず多かったのが、女性を採用しやすくなったという感想です。女性が多い企業は当然ですが、男性中心であった企業でも、採用対象を女性に拡げる際に、女性活躍推進に取り組んでいたことが、優秀な女性の獲得につながったというものです。このように、人材の確保が極めて難しい現在において、女性の採用に舵を切ることは極めて有効です。その際、女性活躍を推進していることが、応募者の安心につながっているのです。

次に多かったのが、女性の定着率向上につながっているというものでした。女性従業員の定着は、どのような企業でも望んでいることです。女性活躍推進に取り組むことで、そのための環境整備の方法が具体化できるのです。

具体的には、次のような取り組みがありました。
●出産前後休暇、育児休暇、介護休暇などの制度の整備
●育児休暇へ入る前、復職前の研修実施
●育休中の女性従業員への会社の情報発信
●短時間労働(正社員)、テレワーク、育児を考慮したシフトなど、働き方の選択肢を増やす
●女性用トイレ、女性が扱いやすい機械などの導入

取組内容は企業によって様々ですが、男女を問わず従業員の意見をよく聞くことが重要のようです。その結果、女性活躍推進への取り組みが、男性の働きやすさにもつながったという感想も聞きました。

このように、女性が働きやすい環境を整備することは、女性の採用増・定着率向上により、ひっ迫した採用環境に置かれた中小企業にとって、人材確保の有効な手段なのです。そのためにも、東京都の女性活躍推進事業を利用することを提案します。

 

まとめ(ワーク・ライフ・バランス実現の効果の確認)

本コラムでは、ワーク・ライフ・バランス実現の手段の一つとして、女性活躍推進への取り組みを提案しました。最後に、ワーク・ライフ・バランス実現に取り組んだ結果、どのような効果を得られるかを確認します。

2014年に東京都が発表した「平成25年度 女性の活躍促進への取り組み等 企業における男女雇用管理に関する調査」によると、取り組みがある程度進んだ企業の回答には、否定的な意見は見られませんでした。回答率が30%以上の意見には次のようなものがありました。

1位(58.8%):女性従業員の労働意欲が向上した
2位(41.7%):組織が活性化された
3位(38.8%):優秀な人材を採用できるようになった
4位(31.8%):男性が女性を対等な存在として見るようになった

このように、ワーク・ライフ・バランス実現への取り組みは、中小企業にとってメリットが大きいことが分かります。これから取り組もうとしている企業は、女性活躍推進から始めることが重要であり有効な手段としてお奨めします。

 

 

【執筆者プロフィール】

土田哲(つちださとし)

つちだ中小企業診断士事務所代表(http://www.wild-boar-consulting.com/)
1964年新潟市生まれ。明治大学卒業。
中小企業診断士として活動の傍ら、ITシステム開発のプロジェクト・マネージャーも生業とする。
専門はIT利活用。公的申請も得意とする。