セミナーの概要

1-1 開催概要

港区区内中小企業経営者、人事担当者等を対象に、広くワーク・ライフ・バランスの周知を図る講演会と導入に繋げるセミナーを一体化した「講演会・セミナー」を開催した。

今年度、「講演会・セミナー」は、平成30年10月と平成31年2月の2回開催であり、今回は、その2回目の開催である。

◆開催日時:平成31年2月18日(月) 18:00~20:20
◆開催場所:港区立港勤労福祉会館 第一洋室
◆主催者:港区産業振興課港勤労福祉会館
◆講  師:坂本 光司 氏
(経営学者、人を大切にする経営学会会長、元法政大学大学院教授)
◆講演テーマ:「人を大切にする経営」
◆参加者数:38名
◆アンケート回答数:31名

1-2 開催構成

第一部 18:00~19:45

◆挨拶 (港区産業振興課港勤労福祉会館 館長 上嶋英治氏)
◆港区ワーク・ライフ・バランス推進企業認定事業について
(港区総務部総務課人権・男女平等参画担当 二宮崇浩氏)
◆講演 「人を大切にする経営」
(経営学者、人を大切にする経営学会会長、元法政大学大学院教授 坂本光司氏)

<休憩10分>

第二部 19:55~20:20
◆ワーク・ライフ・バランス何でも相談会

 

セミナーの内容

2-1 内容概要

これまでに8,000社以上の企業等を訪問、調査・アドバイスを行い、「日本でいちばん大切にしたい会社」等多数の著作もある坂本光司氏より、「人を大切にする経営をめざして~業績向上のためではなく人の幸せのための経営をから」と題した講演をいただきました。

〔坂本光司氏〕

 

2-2 内容詳細

(1) はじめに~企業の目的

日本の企業が抱える問題は2つあります。一つは一時的問題、もう一つは構造的問題です。前者の代表的なものは好不況の波であり、その都度本気で対応していたら状況が変化したときに苦労します。しかし後者に対応するには、企業の仕組みそのものを変えなければなりません。

現在、どの企業にも求められているのは、労働力人口の減少への対処です。労働力人口は、この先20年間で1,200万人減ると言われています。そのような環境下において人を大切にしないと、今働いている社員が辞めていったり、本領を発揮しなくなったりします。もちろん採用にも苦労するでしょう。今の学生が企業を選ぶ基準は、「楽しく働けるかどうか」です。これを「甘え」と呼ぶのは不適当です。さらに言えば、学生は企業選択に当たり、社会的価値があるか、すなわち人のために役に立てる仕事ができるかどうかを見つめています。

翻って、今の日本の企業はいかがでしょうか。人を大切にし、そこに関わる人を幸せにする経営ができているでしょうか。

 

(2) 企業経営の目的

全ての行動には目的・手段・結果がありますが、企業経営の最大の目的は、「企業にかかわる全ての人々の幸せの追求・実現」でしょう。しかし、日本の大企業の多くは、業績を追い求めることが目的にすり替わっています。そうではない、業績は目的実現の手段に過ぎないはずなのです。

関わる人々の幸せを最優先する経営が実践できれば、自ずと業績は好調、赤字にはなりません。その企業にかかわる人々が、自分たちは大切にされていると実感できれば、働きがいが高まるからです。

 

(3) 企業に関わる人々とその幸せのための実践

企業に関わる人々とは、以下の5人です。この5つは並列ではなく、大切にしたい順になっています。

①社員とその家族
②社外社員とその家族(仕入先・協力企業)
③現在顧客と未来顧客
④地域住民とりわけ障がい者等社会的弱者
⑤株主・関係機関

かつて近江商人が大切にしていたという「三方よし(売り手よし・買い手よし・世間よし)」という考えがありますが、これだけでは不十分です。特に①、②をより顕在化させたいという思いがあります。

以下、順次解説します。

①社員とその家族

社員第一主義を貫いている企業は、業績がぶれません。社員は、自分が大切にされていると思うと、力を発揮します。逆に、自分が大切にされていないと感じれば、所属企業の不平や悪口も出てくるでしょう。そんな彼らが、顧客を大切に思うでしょうか。

社員の家族も大切です。時間は皆に平等に与えられるものであり、家族の支援なくして仕事はできないからです。

さて、社員とその家族を大切にするとは、具体的にはどのようなことでしょうか。

・リストラをしないことです。リストラとは、社員とその家族を路頭に迷わすことです。

・サービス残業や長時間残業をさせないことも重要です。サービス残業はそもそも法令違反です。会社がそのようなことをしていて、社員には法律を守りなさいと指示しても、守るはずがありません。好業績を維持している企業の1ヶ月の所定労働時間はほぼ10時間以内です。また、有給休暇取得率も高いです。ときどき、「業績が上がったら残業時間を短くします」とおっしゃる経営者がいますが、それは順序が逆です。

・行き過ぎた成果主義はとらないことです。社員同士、「勝った」「負けた」と大騒ぎして何の意味があるのでしょう。年功序列で良いではありませんか。

・社員の家族も大切にします。誕生日などの記念日は、社員やその家族にケーキでも買って、一緒にお祝いすれば良い。それをやって辞める社員はいません。知っているケースでは、社員数26,000人の非上場企業で、すべての社員に誕生日とクリスマスにケーキを贈っている例があります。

・贈り物だけでなく、社員に積極的にお金を使います。すなわち教育です。これまで見てきた優良企業は、所定労働時間の5%以上の時間を教育訓練に充て、また1年間で年間10万円以上を、教育費用として投資しています。

・計画策定の際は、全社員が参加します。社長と一部の部課長だけで計画を作るケースは多いようですが、それはおかしな話でしょう。皆で作った計画は、やる気の根幹となります。

・家庭的・家族的福利厚生を充実させます。たとえば、人間ドックを会社の経費で実施することです。

・業界や地域の平均以上の給与・賞与を支給します。利益か、社長の給与から払うことになるでしょう。

・66歳以上の社員も雇用します。18歳から91歳までの社員が働いている企業を知っていますが、18歳の社員が、「年齢が上の社員から学ぶことは多い」と作文を書いてきたことがありました。自分の定年は自分で決める、という会社もあります。

・転職的離職率を3%以下にとどめています。社員は、「この会社では幸せは実現しない」と思った瞬間に辞めていきます。離職率が高ければ、社員満足度調査を実施して、原因を探るべきでしょう。

 

②社外社員とその家族(仕入先・協力企業)

日本ではあまり自社に関係する企業を大事にしようという考えはありませんが、外注先や下請企業を安く買い叩こうという企業には注意しなければなりません。一方的にコストダウンをせず、適正価格で発注する。支払いは現金で、締め後20日以内に支払うことを実践したいものです。また、優良企業は、季節性のあるものでも平準発注に努めるなど、自社の都合だけで判断していません。

日本において企業の廃業は、5年間で40万者と言われています。これらはほとんどが中小企業ですが、これは大企業のせいでもあるのではないでしょうか。

良い企業になるには、良い企業と付き合うべきでしょう。

 

③現在顧客と未来顧客

当たり前のことですが、顧客にうそをつかないことが大事です。そして、企業や自分ではなく、目の前にいる顧客にとっていちばんいいことをするのです。

こんな話がありました。某社のトップセールスマンが、「疲れたので退職したい」と打ち明けてきました。聞くと、利益率の高いA製品をたくさん売ってきたとのこと、しかし企業の状況によっては、それより利益率の少ないB製品の方が適している場面もあったそうです。さらに言えば、他社製品の方が良いということも。しかしA製品を売らないと賞与も下がります。自分も家族がいるから簡単に退職できない、そこで苦しんだというお話でした。

 

④地域住民とりわけ障がい者等社会的弱者

現在の障がい者の法定雇用率は2.2%(民間企業)です。障がい者の就労機会はもっと拡大されるべきでしょう。望む障がい者は正社員雇用し、最低賃金以上を払うべきです。

それがどうしても難しい場合でも、できることはあります。障がい者就労移行支援施設や障がい者多数雇用企業から商品を仕入れたり、発注したりするのです。20人以下の会社で、ラベルを貼る仕事を障がい者施設に発注していたケースでは、1枚貼るのに30円を支払っています。これは原価計算というよりは、障がい者の生活単価から出したとのことでした。

なお、「人を大切にする経営学会」では、このような障がい者就労施設等と企業とのビジネスマッチング会も企画しています。

 

⑤株主・関係機関

株主は、5番目にやっと出てきました。株主最優先ではこの先、生き残れないでしょう。

企業は、長続きしなければなりません。企業が継続し、雇用を生み、納税すること、これこそ社会貢献です。以上を実践し、何が世のため人のためになるかを考える企業でありたいものです。それが「人を大切にする経営」になります。業績は、企業を継続させるための手段に過ぎないのです。

(質疑応答:なし)

 


〔会場全景〕