1.セミナーの開催

1-1 開催概要

港区区内中小企業経営者、人事担当者等を対象に、広くワーク・ライフ・バランスの周知を図る講演会と導入に繋げるセミナーを一体化した「講演会・セミナー」を開催した。

今年度、「講演会・セミナー」は、令和元年10月と令和2年2月頃の2回開催予定であり、今回は、その1回目の開催です。

◆開催日時:令和元年10月15日(火) 18:30~21:00

◆開催場所:港区立港勤労福祉会館 第一洋室

◆主催者:港区産業振興課港勤労福祉会館

◆講  師:株式会社吉村 代表取締役社長 橋本久美子氏

昭和57年入社。経理・営業事務・情報誌「茶事記」取材を担当。昭和61年出産のため退社。以降、契約社員として情報誌取材、カタログ・商品企画、日本茶の飲用実態に関する消費者実態調査に従事。平成10年に復職し取締役経営企画室長に就任。マーケティング・商品企画・カタログ制作を担当。平成17年11月、代表取締役社長に就任、現在に至る。

◆講演テーマ:「ひらがな経営で社員がキラリ☆

~社員が当事者になれば、多様性のある仕事場が出現する‼~」

◆参加者数:35名

◆アンケート回答数:24名

1-2 開催構成

第一部 18:30~20:20

◆挨拶        (港区産業振興課港勤労福祉会館 館長 上嶋英治氏)

◆港区ワーク・ライフ・バランス推進企業認定事業について

(港区総務部総務課人権・男女平等参画係 原翔平氏、福島孝二氏)

◆講演 「ひらがな経営で社員がキラリ☆

~社員が当事者になれば、多様性のある仕事場が出現する‼~」

(株式会社吉村 代表取締役社長 橋本久美子氏)

<休憩10分>

第二部 20:30~21:00

◆診断士/社労士 個別相談会

2.セミナーの内容

2-1 内容概要

株式会社吉村 代表取締役社長 橋本久美子氏による、「ひらがな経営で社員がキラリ☆~社員が当事者になれば、多様性のある仕事場が出現する‼~」の講演を実施しました。

食品包装資材の企画、製造、販売を行う当社は、平成29年に経済産業省「新ダイバーシティ経営企業100選」に選出され、また平成30年には、人を大切にする経営学会「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞において中小企業基盤整備機構理事長賞を受賞するなど、その取り組みは高く評価されています。

当社のワーク・ライフ・バランスに向けた実践につき、社長の試行錯誤の経験を交えてお話しいただきました。

〔株式会社吉村 代表取締役社長 橋本久美子氏〕

2-2 内容詳細

Ⅰ.会社概要・これまでの歩み

1.会社概要

  • 昭和7年創業(創業から86年)
  • もともと木箱に入ったお茶の葉を、お客様の求める量に応じて紙袋に入れていたが、昭和47年にアルミ箔製の茶袋が登場し、保存性が改善。それを機に、自社で高度な印刷ができる設備を整えていった。
  • 当時、当社に用意された選択肢は2つ→卸か、メーカーか。

後者は設備投資が必要になるので周囲は反対したが、当時の社長(橋本社長のお父様)が推進

  • 順風満帆だったわけではなく、環境変化への対応に迫られる。

家庭の主婦だった頃、友人宅で出てくるのは、コーヒーや紅茶

(日本茶を飲む習慣がなくなってきた?)

平成に入った頃からペットボトルのお茶が登場

→57億あった売上が10年で46億まで減

2.社長就任前後の試行錯誤

  • 義弟とともに経営に参画。
  • 父親からは、「今日の飯のことを考えるのは義弟、明日の飯のことを考えるのは久美子(社長)」と言われた。

→平成17年に社長就任

  • 一般消費者が何を求めているか分析、特に生活者視点を大事にした。
  • 大ロットでの印刷から小ロットへと舵を切ることに成功。

Ⅱ.ワーク・ライフ・バランスの実践に向けて

1.基本的な考え方

  • ワークとライフは別物ではない。
  • ワーク・ライフ・バランスは結果であって目的でない。
  • バランスをとることも大事だが、まずはやるべきことをやってから実践すること。
  • よく大学生に「御社のワーク・ライフ・バランスは?」と聞かれるが、ワークをしてもらったことがないから、あなたのライフは分からない、というのが率直な感想。
  • 社員と会社が相思相愛でない限り、ワーク・ライフ・バランスはあり得ない。

2.現在主に実践していること

  • 会議などはキッチンタイマーで発言時間を計る。15分で一つの案件を片付ける。

→伝えたいことを短く簡潔に話すスキルを身につけられる。

  • 障害者雇用を積極的に行う。13年前はゼロだったが、今は障害者が6名(うち重度が3名)
  • 高齢者雇用は、再雇用派遣子会社を作り、そこから出向という形で実施。定年無し。もともとは嘱託という形で雇用していたが、昔部下だった社員が上司になるというのは現実的にマネジメントが難しかったため。
  • 女性の活躍も推進。「MO(戻っておいで)制度」(出産や配偶者の転勤などで退職した社員の再雇用制度)や、「つわり休暇」といった両立支援策を拡充。販売促進のための「お茶の飲み比べ」や、水出し茶を楽しむ「フィルターインボトル」、日本茶とセットで味わってもらうために作った和テイストの「割れチョコ」などは、出産経験のある女性社員がプロデュース。彼女たちは「プロ消費者」になって職場復帰している。
  • 残業は減らしている。先代は残業する人のことをほめていた。今は上述のように会議時間の削減や、多能工化・マルチタスク化の推進により、無理せずとも納期を短縮できている。

3.経営理念の必要性

  • 社長就任時は「お茶屋さんにお茶袋を売るのがコア業務」であり、「茶業界のビジネスパートナー」という理念を掲げていた。
  • 東日本大震災後、お茶がいよいよ売れなくなった。「袋はツール」であり売上が立てばいいと思っていたが、これが労使交渉の場面で社員からの反発を招いた。
  • そこで、中身に対して思いがないと行き詰まると気づき、経営理念を作るためのセミナーに参加。
  • 「サンタクロースの理念」からの気づき:サンタクロースは「子どもたちに夢を届ける」のが理念。それがなければ、単なる「納期が厳しく、汚れた場所にも入っていく、しかも直接御礼を言われることもない深夜宅配便」に過ぎない。

→労使交渉で反発した社員は、理念のないサンタクロースと同じだった?

  • できたのが、「想いを包み、未来を創造するパートナーをめざします」という経営理念
  • 経営方針は3つ

①社会性:キラリと光る未来をつくる

②科学性:儲かる仕組みをつくる

③人間性:働き甲斐をつくる

  • 経営理念があれば、社員がスピード感を持って判断できる=ワーク・ライフ・バランスにもつながる。
  • 経営理念は社員にも広がる。

→経営計画発表会で、自分の仕事にとっての経営理念を3分で説明してもらっている。

→デザイナーたちも独自で経営理念を作成(みたらしちゃん理念)

「上司についていくのではなく、理念についていく」

Ⅲ.組織をさらに強くする仕掛け

  • クレームをレジェンドに:クレームは宝の山のはずだが、当事者がいなくなったら忘れられてしまう、そしてまた繰り返される。それを防ぐために、命名して、笑い話にしてそれを語り継ぎたい。
  • 自分の仕事に責任を持ってもらう:ワーク・ライフ・バランスは、与えられるものではない、「心理的には安全な、でも責任は果たしてほしい」と伝えている。
  • 「一枚岩」は怖い:「スイミー」のように、全員が同じ方向に進もうとするのは危険。黒い魚=社長だとしたら、社長が間違えたら皆が間違えることになってしまう。黒い魚は「理念」であるべき。
  • 情報公開:管理職は部下に対して「ホウレンソウ」を求めるが、管理職は部下に情報公開しているのか?という問題意識があった。

→壁新聞を食堂に貼る、決定事項になる前の課題の段階から社員に提示する、等。

  • イチオシ表彰:「あなたがここで頑張っているのは見ているよ」と伝えるため、各社員の称えられるべき行動を書いてもらう(行動は真似ができるから)この取り組みが、心理的安全につながる。
  • 誰でも起案ができるように:新人の方がよく出してくれる。
  • 会議への参画:「自分たちで決めた」と仕込むことが大事。
  • 経営利益の4分の1を社員に還元。
  • 「ひらがな経営」:理解しやすい、届きやすい共通言語を持つ。いろんな社員がいることを理解。彼らとの「相思相愛」を目指したい。

(質疑応答)

Q1:橋本社長自身はワークとライフ、どちらを優先してきたか。

A1:若い頃は芝居に挑戦するなど、ライフも大事にしていた。今は、仕事は自己実現の手段になっており、生きること=仕事をすることだと思っている。

Q2:先代であるお父様との楽しかった思い出はあるか。

A2:会社に入ってからはいろいろな意見の相違もあったが、小さい頃はずいぶんかわいがってもらった。今は他界しているが、週に1回はお墓参りに行き、対話している。

Q3:Q1に関係するが、橋本社長はどこに向かって生きているのか。どんな夢があるか。

A3:息子がかつて通っていた幼稚園の園長先生からとてもいい影響を受けている。当時、園長先生に、「お母さんの夢は何ですか」と問われたことがある。昭和2年生まれのその先生の夢は、平和な未来を築くことだった。それはお芋堀りをしたあと、お芋をふかして食べて、その蔓を再利用して…という、無駄のない、そして食べ物に感謝する、ごく当たり前の園生活を提供してくれたことからも読み取れた。

そこから何十年も経って、今、日本茶を飲む時間は自分と向き合う貴重な時間だと思っている。急須でお茶を入れる贅沢な時間はペットボトルのお茶を飲むのとは違うと感じる。自分もそんな時間を大事にし、それを発信し、資本力でお茶を売る企業に一矢報いたいという思いがある。

Q4:ご家庭のお話が出てこなかったが、ご家庭のお話を聞かせてほしい。

A4:子どもは2人、すでに独立している。掃除や洗濯は小学生のときからさせていた。自立は大事。

〔会場全景〕